思想

【要約&書評】『反応しない練習』

「人間関係が上手くいかない」「自分に自信が持てない」と悩んでいる方へ。

仏教を通して悩みを解消する方法まで教えてくれる、おすすめ本を紹介します。

反応しない練習

本書は「ムダな心の反応をしない」の一言に集約できます。

その為の具体的な方法を、仏教の知識が全く無い方が読んでも分かるほど丁寧に解説してくれています。

興味のある方はぜひ手にとってみて下さい。

悩みの原因:心の反応

私たちの日常は心の反応で作られています。

例えば、あなたは今日恋人とドライブデートの日です。

あなたは待ち合わせ場所で恋人を待っていますが、なかなかやって来ず不安になります(不安になる反応)。

約束の30分遅れでやっとやって来た恋人は、一言も謝りもせずに車に乗り込みます。

イライラしながら(怒りの反応)車を発進させたあなたですが、道路は大渋滞でご飯を予約した時間に間に合うか焦ります(焦りの反応)。

ご飯を食べ始めますが、ここまで思い通りにいかないことだらけで「こんなはずじゃなかった」と腹が立ち(怒りの反応)会話も盛り上がりません。

このように心はいつも反応しています。

そしてせっかくの楽しいはずのデートが、心の反応によって台無しになることもあると思います。

つまり私たちの日常のこのような悩みは、心の反応が作り出しているのです。

誰にとってもなにかしらある悩みを、本書はブッダの教えに照らして考えていきます。

ブッダの教えとは神秘的な宗教的な内容ではなく、

正しい理解に基づき苦悩から自由になる、「合理的な思考」です。

生きることには”苦しみ”が伴う。

苦しみには”原因”がある。

苦しみは”取り除くことができる”。

苦しみを取り除く”方法”がある。

ーサルナートでの五比丘への開示 サンユッタ・ニカーヤ

引用:草薙龍俊 2015 『反応しない練習』

つまり、悩みには原因があり、

原因には対処する方法があり、

対処するには原因を理解するところから始めたら良いということです。

悩みをなくそうとしない。理解する

全ての悩みは「心の反応」から始まっている、ということが一歩目の理解でした。

ここで大事なのは反応せずに心の状態を理解することです。

ではナゼ、心はそのような反応をしてしまうのでしょうか。

苦しみが何ゆえにおこるのかを、理解するがよい。

苦しみをもたらしているものは、快(喜び)を求めてやまない”求める心”なのだ。

ー初転法輪経 サンユッタ・ニカーヤ

引用:草薙龍俊 2015 『反応しない練習』 p26

心の反応の背景:7つの欲求と求める心

ブッダの見つけた”求める心”は”7つの欲求”に枝分かれします。

  1. 生存欲(生きたい)
  2. 睡眠欲(眠りたい)
  3. 食欲(食べたい)
  4. 性欲(交わりたい)
  5. 怠惰欲(ラクをしたい)
  6. 感楽欲(音やビジュアルなど感覚の快楽を味わいたい)
  7. 承認欲(認められたい)

これらの私たちが求める欲求が満たされない時に、負の心の反応を生み出します。

悩みを理解出来ないから解決できないのです。

私たちは悩みを理解する前に反応してしまいます。

「心の状態を見る」ことができたら「ムダな反応」を抑えることが可能になります。

心の状態をよく理解する

では、どうやって心の状態を見るのでしょうか。

その方法が3つあります。

  • 言葉で確認する。
  • 感覚を意識する。
  • 分類する。

まずは今、自分の心はどんな状態なのかを確認します。
「恋人に会うのに緊張しているな」「約束の時間に来ないから不安だな」「車が渋滞しててイライラしてるな」
というように、客観的に心の状態に名前を付けて貼ってしまうのです。

このように言葉で確認すると、自分の心の状態を理解出来、反応から抜け出せます。

続いて感覚を意識するという方法です。

まず、目を閉じて、自分の手を見つめてください。暗闇のなかに「手の感覚」がありますね。その手を見つめながら上に挙げてください。「動く感覚」があります。

引用:草薙龍俊 2015 『反応しない練習』 p38

こうして、日常から身体を動かす「感覚」を意識的に感じ取ると、心をリフレッシュする効果があります。

そして頭の中を分類する方法です。

「言葉で確認する」と似ていますが、自分の心の状態を

  1. 貪欲
  2. 怒り
  3. 妄想

の3つに分けて理解する方法です。

1つ目の「貪欲」とは「求めすぎる心」の事です。
もっと自分の話を聞いて欲しい、もっと自分の気持ちをわかって欲しい、
という人間関係の不満は「貪欲」「求めすぎる心」から来ています。

2つ目の「怒り」とは、「失った悲しみ」、「コンプレックス」、「挫折」の事です。
あの人に言われた言葉をずっと根に持っている、自分はなんで冷たい態度を取ってしまったのだろう、
という不満感、不快感は「怒り」から来ています。

3つ目の「妄想」は「思い込み」、「不安」、「優劣」、「善悪」の事です。
未来に対する不安、人と勝手に比べてしまう、
という想像や、つい余計なことを考えてしまうのは「妄想」です。

私たちが日常で抱える悩みや苦しみは、これら3つのどれかに当てはまります。

こうした理解によって、悩みや苦しみを作り出しているムダな反応を解消していくのです。

正しい理解

「正しい理解」に「反応」はありません。

「ある」ものを「ある」とだけ、ありのままに、客観的に、ニュートラルな目で、
徹底的にクリアな心で自分を、相手を、世界を理解することを、「正しい理解」と表現します。

ブッダの教えとは、「正しい理解によって、人間の苦悩から自由になる方法」の事なのです。

自分を否定しない。どんなときも

「恋人に嫌われてしまったかもしれない」「職場で役に立っている気がしない」

このように私たちはすぐに自己否定をしてしまいます。

ここで自己否定がもたらす悩みを理解しようとすると、
まず自己否定をすると承認欲が満たされない「怒り」が生まれます。

「怒り」は「不快」な反応なので解消するために、本人は「攻撃」か「逃避」を選択します。

「攻撃」は、キレたり、怒鳴ったり、嫌がらせをしたりと標的が「他者」への場合と、

自分を責め、自分を断罪するような標的が「自己」に向かう場合があります。

「逃避」はもう何もしたくないと、ひきこもったり、鬱の様な状態の事だったり、
お酒だったり何かに依存してしまう状態の事です。

きっと誰にでもいくつか思い当たる事があるのではないでしょうか。

これらは私たちの承認欲求の渇きが原因となって起こります。

自己否定防止エクササイズ

一歩、一歩と外を歩く

え、散歩ですか、と思うかもしれません。

はい、30分でも1時間でも歩いてみてください。

歩く時には目、耳、鼻、口、肌からそして歩く一歩、一歩の感覚に意識を向けます。

つまり自己否定も自分の心の反応が作り出しているので、心の反応を別の方向に向けるのです。

広い世界を見渡す

こちらも文字通り実際に、ベランダや近くの公園から見える外の世界を眺めてみて下さい。

そこには青い空や、星の輝く夜空、またはいろいろな人の生活があるでしょう。

その時にふと、自分の自己否定は単なる「自分の中の小さな価値観」の中での思い込みではないかな、と気づくでしょう。

そうした自分の「思い込み」という「執着」から一歩離れて、外の世界を見渡してみれば、

「否定的判断」は存在しなくなるはずです。

「わたしはわたしを肯定する」

3つ目は「わたしはわたしを肯定する」と自分に言い聞かせましょう。

この場合の「肯定する」はよく言う「ポジティブ・シンキング」とは違います。

あまりに前向きな言葉だと「現実のわたし」とかけ離れてしまい、心がウソを感じ結局言葉だけで終わってしまいます。

仏教は「正しい理解」を基本に据えるので、現実と合致しない言葉掛けを当てにしません。

問題は今自分を否定している判断をどう止めるかなのです。

それには判断そのものを停止させる、シンプルな言葉が効きます。

それが「わたしはわたしを肯定する」なのです。

判断を止めれば、人生は流れ始める

私たちの日常に、失敗や過ちはつきものです。

肝心なのはその時に「どう対応するか」です。

落ち込まない。過去を振り返らない。自己否定をしない。

どのような状態にあっても、自分を否定するという判断を手放す事です。

そして、今何をすべきか、何ができるか、という「この瞬間」だけを考えましょう。

今を見据えて、正しく理解して「ここからできる事」に専念するのです。

まとめ

いかがだったでしょう。

ここまで読んでいただいた方には本書が、小難しい仏教用語を解説した仏教書ではない事がお分かりいただけたのではないでしょうか。

本書は八苦であったり、三毒というイメージ的に難しい仏教の言葉を、「私たちの悩みを理解するためのツール」として分かりやすく使っています。

また、悩みを解消する方法をブッダの教えに基づき、具体的に実践できるように紹介さてているのはとても新鮮です。

人間関係に悩んでいる方、自分に自信を持てない方にぜひ手にとっていただきたい本です。